続ブログションガネー

心にうつりゆくよしなしごと

夏目雅子は鬼龍院花子ではなかったのだった!!

2021年2月から4月にかけて、国立映画アーカイブで、「1980年代日本映画――試行と新生」という1980年代の日本映画を回顧する特集をやっていました。
プログラムの中の一本、「鬼龍院花子の生涯」(1982/東映俳優座映画放送)を観てきました。夏目雅子の「なめたらいかんぜよ」の台詞で有名なあの映画です。夏目雅子の作品を観たくてチョイスした次第です。

まず、多くの方もそうだったかもしれませんが、私は夏目雅子の役は鬼龍院花子だとずっと思っていました。しかし夏目さんの役は花子ではなく花子の義理の姉で物語の語り手である松恵さんになります。そして、タイトルは「花子の生涯」ではありますが、物語は大正から昭和初期にかけての鬼龍院一家の興亡を描いたダイナミックな物語でした。
松恵と花子の父の仲代達矢演ずる鬼龍院政五郎(鬼政)の陽気でスケールの大きく、かつユーモラスな演技、母の岩下志麻演ずる歌さんの所作の美しさは見どころです。花子を演ずる高杉かほりは、お座敷の奥で大事に育てられた妖気漂うたたずまいが素晴らしい。
それから、歌さんは腸チフスにかかってしまい、感染症なので本来は強制入院するところ鬼政の反対で自宅療養になってしまう。それを看護するのが松恵なのですが、マスクをせずに看護していて病気が感染してしまう…という件は、時節柄重い印象を受けました。

もう一つ面白かったのは、東映の映画ですが仲代達矢が走る場面では岡本喜八作品のような雰囲気が漂い、岩下志麻のエレガンスさはやっぱり松竹映画であり、鬼政の子分には室田日出男、広瀬義宣など東映のいつもの面々が登場し、中村晃子や佳那晃子などの女優陣のポジションは五社英雄作品だなあ、と俳優の個性が色分けされながらも混ざっているところでした。

そして夏目雅子。彼女は極道の一家に育ったものの、おそらくその反発から女学校に進み教員になります。静かながら心の奥に秘めた芯の通った強さ(土佐のはちきん!)の爆発があの「なめたらいかんぜよ」の台詞につながっていくのです。しかしあの若さであのセリフを低めのトーンで言ってしまう彼女はすごい。恐ろしい子雅子。
もし彼女が生きていたら、日本のドラマや映画はどんな風になっていたんだろう…(余談ですが、彼女と同じ事務所で日航機事故で亡くなった北原遥子さんについてもそう思うのです)。

※Noteに2021年3月25日に掲載した文章に加筆修正しました。

 

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