続ブログションガネー

心にうつりゆくよしなしごと

北条秀司の『奇祭巡礼』

昭和から平成にかけて大活躍した劇作家の北条秀司の『奇祭巡礼』がこのたび(2021年)淡交社から再刊されました。
歌舞伎愛好者の私にとって、歌舞伎の脚本も書いておられた北条先生はなじみの存在で、令和の御世に先生の本が再刊されるとは(泣)。

この本を読んで初めて知ったのですが、北条先生はお祭りが好きだったらしく、何冊かお祭りに関する本も出されていたようです。私もお祭り好きなので手に取った次第。
ちなみに「奇祭」と銘打ってはいますが、取り上げられているお祭りをネタにして扱っているわけではないです。
奇祭という字を用いたが、それは現代感覚の上で様式がめずらしいというほどの意味であって、どの行事も古来厳粛な信仰心によって奉仕されて来たものだ。そして現在でもその心は消えいず、当事者たちは敬虔な態度で奉仕をつづけている。その姿を描いてみた。
ー「あとがき」より

文中に出てくるお祭りでは、地獄の様子をお芝居仕立てで演じる千葉の虫生の「鬼来迎」や、吉野の金剛峯寺の「蛙飛び」などは行ってみたくなりました。

それから、北条先生の文章のうまさにも改めて感銘を受けました。いい意味で力の抜けた文体。オチの付け方。風景描写の巧みさ。万葉集の歌や芭蕉の句の引用のタイミングの良さ。こういう文章を書けるようになりたい。
一番うまいと思ったのは、「相馬の原の野馬追い」の章の最後です。
先生はおそらく野馬追いがお好きで、文章にもちょっと力が入っています。これは野馬追いの描写も楽しそうだ!と盛り上がったところ、
さあ、いよいよ待望の相馬野馬追いだ。
の一文で文章が終わってしまうのです。
うまい、うますぎる。
これから先を見たくて現地に行きたくなっちゃじゃないですか!

かつて大学の国語学の時間に「自分の好きな文章を原稿用紙に書き写してください」という課題があったのですが、この本の文章はは丸ごと一冊書き写したいです。

※Noteに2021年4月7日に掲載した文章に加筆修正しました。